#14 あなたは「ニッケ」と聞いて何を連想しますか?

作品

こんばんは。

ぷんじです。

孤独なカラスの工房へようこそ。

私がまだ若い頃、付き合いのありました先輩方の中に、Sさんという人がいました。

この人、めちゃくちゃ凶暴な人で、ケンカで殴られて倒れているなんてところを見たことがありません。本当に怖い人でした。図体はまるで、クマのようにガッチリとした体格の、たぶん180センチは超える大男。

顔はこれまたひどくて、アバタ面のカバみたいなふざけた顔なんですが、どういうわけか、頭が割と小さくて、その体と頭のバランスが取れていないのです。しかし本人は、その頭が小さいことをやたらと自慢していました。口ぐせは「オレが痩せれば芸能人だ」でしたね。

このSさんに、我々後輩連中が付けたあだ名が「ニッケ」です。

もちろん、いい意味でのあだ名ではありません。冗談抜きでほんとにヤバい人なので、本人の前では決して口にしませんでしたが、影ではコソコソ、馬鹿にするように使ってました。

「うっ。ニッケ来た、ニッケ。おい、見てみろよあのニッケのカッコ(笑)ダッセぇ」

とまぁ、こんな感じですね。

では、なぜ、「ニッケ」なんてあだ名が付いたのでしょう。

いきなりですが、皆さんは当然、NIKEはご存知ですよね。

ピンときましたか?…そう。

Sさん、NIKEを「ナイキ」と読まず、「ニッケ」と読んでいたのです。しかも本気で。

女の子をナンパする時も、「お、お姉ちゃん、そのニッケどこで買ってきたの?かっこいいね(笑)オレも欲しいなぁ。一緒に買いに行こうよ。そんでさ、オレとニッケでペアルックにしない?ニッケで」

こういう人こそ警察に取り締まってほしいものです。

しょっちゅうこんな感じでしたので、後輩の我々はたまったものではありませんでした。怖くてとても意見などできなかったのです。

しかし、さすがにこのままではヤバいということになり、厳正な抽選の結果、私がSさんと話をするということになってしまいました。

なるべくご機嫌の麗しい頃合いを見計らって、覚悟を決めて話を切り出します。

「…あのぅ。今さらで申し訳ないんですけど、それ、実は「ニッケ」じゃなくて「ナイキ」って読むんですよ」

「はぁ?「ナイキ」?聞いたことねぇぞ。オレを馬鹿にしてんのか?」

やっぱり。こうなるんじゃないかと思っていました。あの時たしか、体が震えていたような…。

「そもそもお前、アルファベット読めんのか?なんて書いてある?「えぬ・あい・けー・いー」って書いてんだろ?誰がどう読んだって「ニッケ」としか読まねぇじゃねぇか」

…。。。

あの時、それから私がどうなったのか、今ではよく覚えていませんが、幸いなことに殴られたりはしなかったと思います。殴られたら覚えていると思うので。

それでも、一つだけ、あの時心に決めたことははっきりと思い出しました。

「何があってもこんな人間にだけは絶対にならないようにしよう」

今、Sさんがどうなっているのか、わかりません。

もし健在だとしても、もう二度と会いたくはないですね。

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